【201】文京区小石川 小説の情景を探して
仕事をさぼった若いサラリーマンが住宅街をふらふら歩いていると、バラック建ての家の中でなにやら話している男女が目に留まります。花の行商人を装って何度もその家に通うようになった会社員は、やがて女性と…。吉行淳之介の短編「薔薇の販売人」は、小石川が舞台です。ずいぶん以前に読んだ小説ですが、そのとき思い浮かべた情景が頭から離れませんでした。坂の多い高台の住宅地を実際に歩いてみると、マンションに混じって小説を彷彿させる古い家がありました。徳川家ゆかりの伝通院はじめ、寺社も点在しています。
こんにゃく閻魔で有名な源覚寺の裏手あたりです。気になる坂を見つけ、吸い寄せられるように上ると、片側に古い家が並ぶ魅力的な小道に出ました。石段の手前には洗濯物が干してありました。
この小さな階段は本来、民家の勝手口にでもつながっていたのでしょうか。今は階段としては使われていないようです。
上富坂教会。この日は復活祭、午前中にイースターのミサがあったようでした。
ギョッとして目が釘付けになりました。なぜ鳥居がこんなところに…。天照大神を祀る小石川大神宮です。1966年創建の新しい神社で、こんなところで場所を確保するのが大変だったのでしょう。建物の奥に拝殿がありました。
徳川家康が生母をここに葬ったのが伝通院の始まりです。二代目将軍・秀忠の長女で、豊臣秀頼に嫁いだ千姫の墓もここにあります。
1631年創建の慈照院には、辰巳屋惣兵衛という江戸中期の人物の墓がありました。初めて聞く名前でしたが、門前に案内板があり、茶漬け飯・田楽豆腐屋を経営しながらも商売は家人に任せていた任侠で、江戸市民に踊りを広めたことで有名なのだそうです。
慈照院の隣の民家の窓が、枯れた蔦と相まって素敵でした。
※Sony α6300で撮影